昨日の記事で書いたお客様は神様という日本独特な考え方に続いて、今回はそれがどのようにビジネスの場面に影響しているのかについてです。
過去に顧客満足度をすごく意識する会社で働いていたことがあります。グローバルな企業だったので各国の顧客満足度を比較される事がよくありました。顧客満足を数値化した場合、日本が他の国より低いことがよくあります。
日本人が提供するサービスは他のどの国のサービスよりもお客様に尽くしています。これは間違いありません。それなのに顧客満足度という数値で見ると、海外の方が高くなることは多々あります。
なぜなのか?僕としては理由ははっきりとしているんですが、日本の文化を知らない外国人に説明するのはすごく難しい。これにはすごく悩まされました。
日本人と外国人はアンケートの答え方が違う
例えば 10 段階評価のアンケートがあるとします。① が不満で ⑩ が大変満足しましたという指標です。これのアンケートを求められた場合、一般的な日本人と一般的な外国人では回答方法が異なります。
日本人は加点方式、外国人は減点方式
日本人は加点方式で答えます。特に不満がなければ真ん中あたりの ⑤ をつけます。そこから、印象に残る対応をすると +1 で ⑥。さらに、担当者がよかったので +2 で ⑧。 満点の ⑩ は、これ以上の成長を求めない事を表す数値だと考える人がいるため、日本のアンケートで ⑩ をもらう事はすごく難しい。
これに比べて外国人は減点方式で答えます。
求めていた結果がでたらとりあえず ⑩ をつけます。ちょっとここがよくなかったと思うと -1 で ⑨、ここも悪かったなって思うと -2 で ⑦。
このように、日本人が何気なくつける ⑤ という平均的な数値でも、外国人の視点から見ると、⑤ には何か重大な問題があり、改善の余地があるという風にとらえられてしまいます。
同じ客層に対して、日本人が提供したサービスの顧客満足度と外国人が提供したサービスの顧客満足度を比べると、確実に日本人が提供したサービスの方が高く評価されます。
しかし、外国人が外国人に提供したサービスと、日本人が日本人に提供したサービスの顧客満足度が比較されると、日本人は低く評価されてしまいます。
簡単に言うと、顧客満足度を評価される場面において、日本人って最悪の客層なんです。
日本人が求めている基準が外国人とは違う
今日の記事で書こうと思っていたことをケンサクさん (id:websearch666) が昨日の記事のブクマにコメントしてくれました。
日本人は「出来る事はなんでもやる」がサービスだと思うけど、外国人は「やるべき事をやるのがサービス」だと考える。
これがまさに今日伝えたかった事のポイントです。「出来る事はなんでもやる」はすごく理想的な対応方法だと思います。しかし、ビジネスの場面においては、今これのせいで日本人は苦しめられています。
というか、日本人同士がお互いの首を絞めあっている状態です。
日本人の考え方のビジネスへの影響
ビジネスにおいては支出がすべてです。当たり前ですが、出費以上の利益を得る必要があります。そして、一番大きな出費は人件費です。
日本人の「出来ることをなんでもやる」というサービス精神は、同じ利益に対して出費を増やす結果になっています。つまり、費用対効果を犠牲にしています。
わかりやすくするために、まったく関係のないことを例にしてみてみましょう。あなたが 10000 円で携帯電話を代行で契約してくれるサービスを提供しているとします。客は 10000 円払えば、次の日には使える携帯電話が届くというサービスです。
そこで、それを契約した客から、「携帯電話を明日じゃなくて今晩届けてもらえないかな?ついでに充電器も買って来てほしいんだ。」と言われます。この時、日本と海外で対応方法に違いが出ます。
まず日本の場合、ほぼほぼ No とは言いません。日本人なら確実に受けます。受けるどころか、(この客との次のビジネスを期待して)請求すらしないこともよくあります。
海外の場合、これを言われた時点で追加請求をします。充電器代だけではなく、充電器を買いに行くために必要な稼働分と、本来は明日納品なのを今晩入れるために頑張って対応する分も追加で請求します。
これはかなり簡略化した例ですが、実際にこれと同じことが大手企業でも行われています。もらえる利益 (さっきの 10000 円) は同じなのに、それに対して追加で求められたことや短縮される納期もただ同然で受けてしまいます。でも、さっき書いた通り、出費が利益を上回ってしまうとビジネスは成り立ちません。
では、どうしてるのか?これが僕が一番いやな部分です。
結局追加で何かをやらないとだめになった部分は社員がこなすしかありません。納期が短くなった分、社員が頑張るしかありません。でも、もらえる金額は決まっているという言い訳で、この社員に対して支払われる報酬は変わりません。報酬も追加すると会社としては出費が増えるから。
いわゆるサービス残業や低賃金というところにつながります。つまり、会社がちゃんとお金を請求でき無い事により、社員の給料が安くなっているって事です。
やられて嫌なことを当たり前のように他にも求める
はい。書いてある通りです。自分が納期を短縮されて、追加で色々求められて苦しんでいるのに、自分が客の立場になるとそれを求めてしまいます。だってそれが日本のサービスにおいて当たり前の事なので。
外国人は「やるべき事をやるのがサービス」だと書きました。さっきの例で言うと、客の立場としては、 10000 円払ったのだから次の日に携帯電話が届くことを求めます。それ以上でもそれ以下でもありません。
場合によって、どうしても納期を早めないとだめなことがあるかもしれません。しかし、それを客側から依頼した場合、追加費用が発生する事は当たり前だと考えています。ここでサービスでただでやってくれることが当たり前と考える日本人の方がおかしいと僕は思います。
昨日の記事に書いたお客様は神様というところにも共通する点ですが、結局客側としての意識に差があります。日本人は客になった途端、すごくえらくなってしまいます。
(この絵は本題とは関係ありません。重たい話が長くなったので、せめて目の保養に)
日本人が海外勢にビジネスで圧される理由
ここでやっと本題です。
普通に考えると誰もが低賃金で働くのなんて嫌ですよね。どうせ働くならちゃんとした報酬をもらいたい。でも、働いた時間に対しての報酬 (費用対効果) を世界のランキングで見た場合、日本って結構低いところに位置しています。日本人は働いている時間の割に給料が安い。
数年前までは日本企業同士の戦いでした。客が日本企業 A と日本企業 B を比較するので、たとえ多少のサービス残業をしたとしても客に選んでもらうことがもっとも重要でした。
働く側としても、日本という範囲で相対的に企業を比較した場合、多少横暴でも成功している会社の方が有利でした。どうせどの会社に行っても求められるものが同じなら、成功している会社に入った方が有利です。
でも最近では海外の企業が多く進出してきて、客が比較するのは日本企業だけとは限りません。外資系の企業も対抗相手になってきます。ここで一つの矛盾が生じます。
日本人は日本企業に対しては「出来る事はなんでもやる」サービスを求めるのに、外資系の企業に対しては「やるべき事をやるのがサービス」しか求めません。正確には求めないというより、そういうものだと受け入れている感じですね。
でもこれが負のループの始まりだと僕は思います。
外資系企業を(サービス以外の理由で) 選ぶ客は増えてきます。グローバルを相手にした場合、サービスだけでは勝てないところが多くあります。これは仕方がない。絶対的な母数が違いすぎます。
しかし、日本はこれに対抗するためにさらにサービスを手厚くします。つまりこういう流れです。
- 客が日本企業と外資企業を比較する
- 日本企業は外資企業に客を取られないように、サービスを手厚くする。
- それでも、(サービス以外の理由で)外資を選ぶ客がいるので、外資企業が徐々に増えていく。
- 日本企業はさらにサービスを手厚くして、外資に客を取られないようにする
同じ値段でサービスを手厚くするという事は出費が増えるという事です。本来もらえるはずの利益が減るという事です。
今はまだサービス残業などの「文句」程度で済んでいますが、この姿勢で外資企業と立ち向かうのはそろそろ限界だと思います。
社員が満足していないと会社は成り立ちません。遅かれ早かれどうせつぶれます。なので、そろそろ会社も「過度なサービス」という定義をちゃんと見直して、もらうべきものはもらいましょう。もしくは、外資企業にも同じものを求めましょう。同じサービスを同じ値段で求められると海外が日本に太刀打ちできるはずがありません。
最後に、ここで「会社」と書かれているから他人事のようにとらえた人もいると思いますが、会社の中でこの判断権を持っているのはそこで働く日本人です。客として一番最悪なのは日本人です。僕たちひとりひとりが、過度なサービスを求めるのを意識的にやめていかないと。
今の日本人を苦しめているのは日本人です。お互いの首を絞めあうのはそろそろ終わりにして、協力しあいませんか?